大人が格好よければ子供はグレない! 90年代のリトル「重力ピエロ」 デニス・デュガン「プロブレム・チャイルド うわさの問題児」



 90年アメリカ。
 この時期に流行したキッズ・ムービー、「キンダーガートン・コップ」や「ホーム・アローン」の原点とも言える作品。子供が仕掛ける行き過ぎたいたずらにお手上げの大人を笑うストーリー仕立ては確かに「ホーム・アローン」で昇華した。
 主演のマイケル・オリバーくんを取り囲む出演者が終始キャーキャーうるさいのがひとつの難点で、映画史に埋もれたジャンク・ムービーのひとつかと思いきや、これが意外に良作だった。

 子供のイタズラはたいがい可愛い(と思われている)ものだが、それが先天的に度を越していたらどうなるか。物語は、生まれたばかりの主人公が見知らぬ家の玄関先に捨てられてしまうところから始まる。「こんな可愛い子を誰が捨てるのかしら」と微笑みかける淑女の顔におしっこを引っ掛けて怒らせ、違う家では猫のエサ入れに中性洗剤をぶち込み、金魚を掃除機で吸込み、さらに違う家ではショベルカーのおもちゃを壊された腹いせに、トレーラーハウスを本物のショベルカーでぶち壊す。様々な家をたらい回しにされたあげく、行き着いた施設の修道女にすら「悪魔の子め!」とダミアンばりに非難される主人公は、「みんな僕のことなんか嫌いなんだ!」とすぐに自分を捨てる大人に対して怒りまくっている子供なのだ。
 その象徴として、ジュニアは「俺は悪くない! 世の中が冷たいだけだ!」と叫ぶ連続殺人犯のトレードマークを真似て蝶ネクタイをつけ、さらに修道院の「有名人に手紙を出そう」という授業でこの殺人鬼に手紙を出す。

 この主人公・ジュニア(なんと適当な名前!)の怒りの理由が描かれているからこそ、どんなイタズラにも意味が与えられ、彼を引き取ることになるベンとフローの夫妻(ジョン・リッター、エイミー・ヤスベック)との話が深みを増してくる。

 ベンはベンで父親からも見下され、近所の友人からも馬鹿にされている善人だ。フローも父親もイタズラがエスカレートするジュニアのことを忌み嫌い、他の家と同様に突き返そうとするが、ベンだけはいつまでもジュニアを可愛がり続ける。

 映画のクライマックスは、ベンと脱獄した連続殺人犯の対決へともつれこむ。ジュニアが出した手紙を頼りに、犯人が家にやってきたのだ。
 犯人はジュニアと夫人を誘拐し、ベンに金を要求する。ジュニアが引き起こした最悪の事態にさすがのベンも堪忍袋の緒が切れて、ジュニアの部屋をひっくり返す。「結局最初からなにもかもがダメだったんだ! 全ては無駄だったんだ!」と。机の中を見ると、ジュニアが書いた家族の似顔絵が見つかる。そこでは、ベンの父親が怪獣として描かれ、フローは口が異様に大きい化けものになっていた。呆れて失笑を漏らすベンが次の紙を乱暴に取り出すと、そこには「Mr Healy」という文字とともに、優しい顔をした男性が描かれていた。ベンの思いは、ジュニアに通じていたのだ。
 そしてラスト、ジュニアは殺人犯と決別することで、ベンを「パパ」と初めて呼ぶ。
 
 この映画は、ジュニアの心がほぐれていく過程を見せることで、ベンの父親としての成長を描いている。自立しきれていなかった父親や近所の友人に反旗を翻し、自分が本当に求めるものを取り返しに立ち上がるベンは、実にいい顔をしているではないか。
 「プロブレム・チャイルド」は極めて小さな作品だが、家族の絆をDNAを越えて描いた「重力ピエロ」にも繋がるようなさわやかさを感じさせている。知名度こそ低いかも知れないが、問題児だからと馬鹿にしていると、そのイタズラに思わず唸ってしまうなかなか侮れない作品だ。