真の怖さは狭い視野における無知にある 中島哲也「告白」



 この松たか子、怖いほどに恰好いい。
 未成年が引き起こした殺人事件とその後を巡る告白。冷徹に努めることで狂気を押し込めたかのような松たか子の演技もさることながら、次々に語られる告白によって歪んだ人物像が吐露されていくのも、「こんな現場に絶対居合わせたくない」と思うほどに恐ろしい。モノローグでしかストーリーが語ら得ず、神の視点で傍観する観客と松たか子だけしか全容を把握できない(当事者に近づくほど翻弄されてしまう)絶望感が痛々しく心に突き刺さる。
 一貫して溢れてくるのは、陰湿な狡猾さと無知への憎しみだ。
 基本的に「良いこと」風の発言や行動はだいたいが建前だけのものだし(励ますフリでその実悪意しかない色紙はまさにその象徴)、熱血を気取った教師が空回りするアホらしさや、森口悠子の言葉を真に受けて狂気へと落ち込む下村直樹、「HIVは怖い」と思い込むだけで思考停止する生徒たち。映画のここのテイストを嫌悪する人もいるだろうが、それはここに登場する人物たちに限った話ではない。他の方法を知らず、知恵を絞らず、狭い世界でしかモノを見ていないのは私たちでないと誰が言い切れるだろうか?
 最後には「デスノート」にも見られたような知恵比べにもつれ込み、観客は一応のカタルシスを得る。
 嗚咽を漏らす弱さを抱えながら、どんな手段を使っても復讐を果たそうとする松たか子の行動は、実にクールだ。
 中途半端な非情さをまとった殺人者を追い詰めるために自らも非情にならざるを得なかった松たか子は、決して正義としては描かれていない。それでも意志を完遂させる姿に惹かれてしまうのは、通常では勝ち得ることのできない信念と精神を、松たか子が滾るような演技で再現しているからだろう。

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