かわいい映画、と思わせてキモさ全開。それでもめげないお婆ちゃんがとっても前向き! シルヴァン・ショメ「ベルヴィル・ランデブー」


 身体を縮ませたり、伸ばしたり、誇張したりするのは、元来からのアニメーションの楽しみだ。この「ベルヴィル・ランデブー」も、実に戯画的に描かれた人物達によって物語が進む。

 セリフがほとんど登場せず、色遣いや演出も丁寧で柔らかでありながら、どこか陰鬱な雰囲気のあるショメ節は、この作品が白眉だろう。

 主人公は、お婆ちゃんとその孫。自転車にしか興味を示さなかったシャンピオンという男の子が、お婆ちゃんのどこまでも献身的でパワフルな協力によってツール・ド・フランスに参加するまでになる。 しかし孫は途中でリタイヤ、しかも黒づくめの怪しい男達に他の競技者と共に攫われてしまう。それに気付いたお婆ちゃんは、孫の後を追っていくのだが……。

 幼少期は可愛くぽっちゃりしていた男の子が、鼻と足の筋肉だけが異様に発達したお世辞にもカッコいいとは言えない痩身野郎に変貌したときの衝撃や、後ろからみればただの黒いぬりかべにしか見えない黒ずくめのマフィアの子分たち(全員)など、コミカルな誇張というよりは悪意さえ感じられるショメの視線が皮肉な笑いを誘っている(しかし、船体部分があり得ないほど縦に高く描かれた貨物船には思わず吹き出してしまった)。

 冒頭では、シルヴァン・ショメ監督の作風というよりは、古き良きアメリカ的カートゥーンの萌芽を彷彿とさせるミュージカルから始まる。ところが、そこで繰り広げられるハチャメチャな展開がどうも気持ち悪い。

 ノリノリで歌っている若き三つ子姉妹の隣では、ジャンゴ・ラインハルト風の男がギターを足で弾いてみたり、フレッド・アステア風の男がダンスをしながら靴に食われたりと一見楽しげだが、あまりに誇張された人間描写と、繰り返される三つ子の画一的な笑みにワーナー的なエンタメ性はない。逆に、キャラクターが画面に笑いかけてくればくるほど、その悪夢的な情景が永遠に続くのではないかと、吐き気が出てくるほどだ。

 劇中でもそのテイストは続き、中でもとりわけ気持ち悪いのは、老いた三つ子(お婆ちゃんと後に出会う)が作ってくれるカエル料理の食事シーン。カエルを煮込んで調理するのはいいのだが、大鍋から取り分けられるのは大量のそのままの姿のカエル(煮込まれて色がくすんでいる)。どうやらじっくり煮込んだようで、それを持ち上げれば先の丸い手や足、目玉のついた頭がドロっと溶けてもげ落ちる。当の三つ子はカエルを丸のまま口に放り込み、ぷらんとした手をはみ出させながら美味そうにムシャムシャ食う。「うへー」と思ってると鍋からぶよぶよのゾンビカエルも飛び出して恐怖は倍増、デザートにはオタマジャクシのおまけ付き。下手なスプラッターよりも相当グロいこの描写は、カエル嫌いなら諸手をあげて外へ飛び出すに違いない。ショメさん、やりすぎっす。

 冒頭からキモさ全開の「ベルヴィル・ランデブー」を見ただけでは、あまりに切ない同監督の「イリュージョニスト」が後に作られるとは到底思えない。その点、レベルファイブの超人気ニンテンドーDSソフト「レイトン教授」シリーズの絵柄は、ショメの毒気を上手く処理してかわいい部分だけを抽出した傑作だと思う。

 そんな生理的嫌悪感を存分に味わえる作品である一方で、こんな奇妙な世界にも関わらず、持ち前のパワフルさと機転が利いたアイデアで孫に近づいていくお婆ちゃんの快活さが作品を前向きにし、さらには三つ子姉妹の家財道具さえ音楽にしてしまう陽気さが全編を通して救いになり、この映画を最後まで楽しくさせるポイントになっている(社会的弱者の抵抗、身近にあるものとアイデアで問題を解決する、というのは、ジャン=ピエール・ジュネ監督の「ミックマック」でも見られた精神。どちらもフランスの作品だが、そこに意味はあるのだろうか?)。

 確かに絵柄や雰囲気は落ち着いているし、「三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー」シリーズということもあってカワイイ作品のかなと思いがちだが、「つみきのいえ」のような清純さを期待していると、その悪趣味さに結構痛い目を見てしまう(それがいいのだが)。いやしかし、「ランデブー」って感じじゃあないよな、これ。